楽曲紹介「ルイス・アロンソの結婚式(La Boda De Luis Alonso)」

Tb.パートの大槻です。
カテゴリ「楽曲」では、当団で取り上げている楽曲の紹介をしていきます。
第7回目は、「ルイス・アロンソの結婚式(La Boda De Luis Alonso)」をご紹介します。

 スペインには400年の歴史を持つ、サルスエラという舞台芸能があります。オペレッタに似た音楽劇ですがスペイン独自のものです。
サルスエラからは数々の名曲が生まれました。劇で使われた人気曲は単独で演奏されることもよくあり、マーチなど別の曲に生まれ変わったものもあります。
今回ご紹介するヘロニモ・ヒメネスの「ルイス・アロンソの結婚式」も、サルスエラから生まれた傑作です。

サルスエラとは

17世紀、フェリペ4世の命により、スペインのマドリッドから10キロほどの郊外にサルスエラ宮殿と呼ばれる離宮が作られました。
この宮殿で演じられていた音楽劇がサルスエラの始まりです。3幕もので、スペインの神話や歴史にちなんだ演目が中心だったようです。

やがてサルスエラは庶民の間で演じられるようになりました。それに合わせて1幕ものに簡素化され、庶民的な演目になっていきました。
18世紀には一時停滞しましたが、ヒメネスが活躍した19世紀には大衆的な芸能として人気を集めました。
サルスエラは、スペイン独特の歌や衣装に彩られた、スペインを象徴する芸術です。

ヘロニモ・ヒメネスの生涯

ヘロニモ・ヒメネスJeronimo Gimenez y Bellido(1854-1923)はスペイン南部アンダルシア地方・セビリアの生まれです。その後マドリードで作曲家・指揮者として活躍しました。

17歳でオペラやサルスエラの監督としてデビューするなど、若いうちから才能を発揮しました。
その後ヒメネスはパリ音楽院で学び、1番の成績で卒業しました(2番が、かのドビュッシーだったそうです)。

パリから戻ると、サルスエラ劇場の監督や作曲家として活躍します。当時評判の劇作家と組んで、サルスエラの作曲を行いました。
作曲のスピードは大変速かったそうです。「ルイス・アロンソの舞踏会(El baile de Luis Alonso)」や「ラ・テンプラニカ La tempranica」などの話題作を書きましたが、晩年はヒット作に恵まれず、注目を集めることはありませんでした。

「ルイス・アロンソの結婚式」とは

1896年、ヒメネスは「ルイス・アロンソの舞踏会(El baile de Luis Alonso)」というサルスエラで成功を収めます。アンダルシアの港町カディスに住む踊りの師匠・ルイス・アロンソを主人公とした恋愛喜劇です。

その翌年(1897年)に作曲したのが、姉妹作ともいうべき「ルイス・アロンソの結婚式」です。どちらもヒメネスの代表作であり、間奏曲(インテルメディオintermedio)は現在でもよく演奏されています。

台本を書いたのは、カディスの生まれで劇作家ハビエル・デ・ブルゴスFrancisco Javier de Burgos y Sarragoiti(1842-1902)です。 デ・ブルゴスはジャーナリストとしても活動した人です。ジャーナリストらしい時事的な話題や世相風刺など、時代の要請に合った庶民感覚の笑いを得意とした人気の劇作家でした。サルスエラだけでも70作ほどを手掛けましたが、ヒメネスと組んで作ったサルスエラとしては、「トラファルガー」や「ルイスアロンソの舞踏会」などが有名です。

サルスエラは楽しい喜劇

このサルスエラの主人公であるルイス・アロンソは、カディスの町に住んでいる気のいい踊りの師匠です。50代ですが、若くて年の離れた娘と結婚をすることになりました。しかし娘には昔からの恋人がいて、牛と一緒にアロンソの結婚式に乗り込んできました。ちょっと脅かしてやるだけのつもりだったのですが、来賓は一斉に避難し、式場は大騒ぎになります。花婿ルイス・アロンソは花嫁を投げ出して逃げるついでにケガをするやら、面目を失うやら、踏んだり蹴ったりとなります。

牛の乱入といっても、牛を描いた布を俳優が被ってバタバタと舞台を横切る程度です。乱闘や闘牛がテーマではありませんので、牛にリアルさがなくてもよいのです。喜劇ですので、コミカルであるほどスペインらしく盛り上がるのです。

ちなみにカディスはスペイン南部・アンダルシア地方の港町です。古代ローマよりさらに昔からある歴史ある町ですが、ヒメネスが活躍した19世紀にはセビリアに代わって大西洋の貿易を一手に握り大変繁栄していました。台本を書いたデ・ブルゴスの生まれ故郷でもあります。

溢れるスペイン色

「ルイス・アロンソの結婚式」は1幕3場のサルスエラです。特に有名なのが、中ほどで演奏される「間奏曲」です。スポーツでいえばハーフタイムショーのような感じです。

場が暗転ののち明転すると、民族衣装をまとった躍り手たちが登場します。曲はフラメンコのリズムで始まり、続いてホタに移っていきます。 その間じゅう、カスタネットを手にした躍り手たちがキレのいい踊りを披露。女性は色とりどりのドレスで大変に華やかです。

この曲はカーテン・コールでも再演されます。曲全体にわたってスペイン色が溢れる華麗でエネルギッシュな曲です。



さて、スペインといえばフラメンコですが、ロマ族(ヒターノ)やイスラム人(ムーア人)の文化がアンダルシアの文化と溶け合って生まれたとされています。 この曲の舞台であるカディスもアンダルシアにある港町ですので、冒頭の8小節で、ここはアンダルシアですよ、という説明ができてしまう訳です。

続いて演奏されるのがホタ。6/8または3/4拍子で、スペインを代表する伝承的な歌・踊りのひとつです。スペイン東部のアラゴンから発生したといわれています。アンダルシアの音楽ではないことを疑問に感じる方もいらっしゃるでしょう。

実は、ホタはフラメンコのルーツともいわれているそうです。民族衣装の男女がカスタネットを持って列を作り、軽快なテンポで周ったり飛び跳ねたりする、イキイキとした踊りです。イキイキとしているのは、ホタは求愛を表わす舞踊だからです。結婚式の場面にはぴったりですね。スペインにはさまざまな舞踊がありますが、フラメンコとホタが選ばれたのはこうした理由があったのです。


日本人である私たちが本場の味を出して演奏するのは難しいことです。
でもブルースカイでは、作曲者やその国の文化を調べるなどして、少しでも本場に近づくことができるよう心掛けています。