楽曲紹介「マイ・ウェイ(My Way)」
Tb.パートの大槻です。
カテゴリ「楽曲」では、当団で取り上げている楽曲の紹介をしていきます。
第10回目は、「マイ・ウェイ(My Way)」をご紹介します。
「マイ・ウェイ」は、フランク・シナトラの歌で大ヒットとなった名曲です。多くのアーチストがカバーし、世界の国々で歌われました。
同時に、この曲には原曲と異なるさまざまな歌詞が付けられてもいます。歌詞にはそれぞれのお国柄も垣間見ることができ、興味深いです。

フランスの「いつものように」
「マイ・ウェイ」の原曲とされるのが、「いつものように(Comme d'habitude)」というシャンソンです。作詞はクロード・フランソワClaude Francois(1939-1978)とジル・ティボ Gilles Thibaut(1927-2000) の共作です。作曲したのは同じくクロード・フランソワとジャック・ルヴォーJacques Revaux(1940-)で、1967年の作品です。 クロード・フランソワは1960年代から70年代にかけて人気があったシャンソン歌手でした。作詞・作曲も手がけ500曲ほどを残したそうです。
歌の内容を見ますと、日本で知られている「マイ・ウェイ」とは、ずいぶん趣が違うようです。 表面だけ愛し合うふりをして暮らす男女の空しい生活を男の側から歌にしたものになっています。 破局の緊張をはらんだ中、日々繰り返される陰鬱で単調な日常を描いた曲です。
アメリカの「My Way」
「いつものように」を知ったポール・アンカが独自の歌詞をつけ、タイトルも「My Way」としました。1969年にフランク・シナトラの歌で売り出すと、大変なヒットとなりました。
ポール・アンカPaul Anka(1941 - )は、歌手・シンガーソングライターとして世界的に知られるカナダ出身のアーティストです。デビュー曲 「ダイアナ」1957年をはじめ、「ロンリー・ボーイ」など60年代にかけて多くのヒット曲を出しました。
「My Way」はフランク・シナトラに提供した曲ですが、後にポール・アンカ自身もカバーしています。ポール・アンカは2023年5月、15年ぶりの来日公演で話題になりました。
フランク・シナトラFrancis Albert "Frank" Sinatra(1915-1998)はニュージャージーの生まれです。ミリオンセラーを連発したアメリカを代表する歌手・映画俳優でした。アカデミー賞助演男優賞も受賞しています。
この曲も歌詞を見ていきましょう。おおまかに言いますと、年老いた男が人生で味わったさまざまな苦難を乗り越えてきたことを自信を持って人に語る、という歌のようです。
人生の最期に自分自身の人生に満足できるというのは誰もが願うところで、これに勝る喜びはないでしょう。老人の人生回顧のような歌詞ですが、作詞したポール・アンカは当時まだ20代でした。
「My Way」に見る"人生成功の秘訣"
歌詞の前半には、計画を立てて注意深く進んだ、とか懸念点にはすべて対処した、といった意味の箇所があります。人生の目的を達成するために必要なことを考え、例外なく注意深くやり通したという内容です。そして、だから必然的に私の人生は成功したのだ、となります。この歌詞はアメリカでは支持されそうな内容です。シナトラ流でしょうか、ポール・アンカ流でしょうか。これらは成功ノウハウ集とも受け取れますね。
そして歌詞の後半には人生の目的が歌われています。「For what is a man, what has he got?」と「If not himself, then he has naught」は、問いと答えの関係です。 人は何のために生きるのか、人は何を手にするのかという問いに対して、自分の道を生きること、その成果として自己実現をすることだ、と答えています。
自己実現以外は価値がないと言い切るあたりには、アメリカの社会風土がよく表れていますね。
この曲の歌詞は、「いかに生きるか」というテーマに対して手段と目的を示しています。理屈っぽい歌詞ですが、アメリカン・ドリームを地で行ったシナトラが歌うと説得力がありますね。
実際ポール・アンカは、この曲はフランク・シナトラにこそふさわしい、と直観していたそうです。
「マイ・ウェイ」とシナトラの人生行路
この曲は、終わりが近づき私は終幕に直面している、いう意味の歌詞から始まります。これは仕事上の終幕でしょうか。はたまた人生の終幕でしょうか。 ポール・アンカはフランク・シナトラを想定して歌詞を書いた訳ですから、シナトラに絡めて解釈することもできますし、そうした事情に拘らず、楽曲としてありのまま味わうというのも可能だと思います。
シナトラに絡めて解釈するならば、シナトラの人生行路を謳い上げた歌詞ということになります。当時、シナトラはまだ50才をすぎたばかり。功成り名遂げた大御所とはいえ、人気は衰えることなく不動でしたし、引退・老境というにはまだまだ早いです。
そうした状況を踏まえると、これまでの歩みを振り返りつつも、いままでと変わらず信念をもって「final curtain」を務めるよ、という"決意表明"とも受け取れますね。シナトラは、この後に引退騒ぎがありつつも、1990年代まで精力的に活躍を続けました。
日本の「マイ・ウェイ」
この曲は日本語の歌詞も作られました。日本人がイメージするのは、日本語の歌詞の「マイ・ウェイ」でしょう。
「今 船出が近づくこの時に」という歌詞から始まる出発の歌です。そして、歌が好きだからこれからは歌でがんばる、という内容が続きます。 いままでの「若い日」を振り返ると、これまでの暮らしは「愛と涙と ほほえみにあふれ」た素晴らしいものだった。 けれど、「私には愛する歌があるから 信じたこの道を 私は行く」ことを「心に決めた」という内容です。
人生の新しいステージに船出して、より良い人生の実りを、というわけです。過去ではなく未来に目が向いている清々しい歌詞ですね。 この曲が出されたのは1972年です。高度経済成長を経験した日本では、力強く歌い上げる歌が時代に合っていたのでしょう。多くの歌手がカバーするヒット曲となりました。
日本でヒットした要因は、万人が共有できる夢にあるのではないかと思います。 日本語版の歌詞は、好きだから頑張る、頑張った先にはきっと何かが待っているに違いない、という希望を感じさせる内容です。 シナトラ版「My Way」とは違って、どう頑張るかとか何のために頑張るかという理屈は語られていません。 好きだから頑張れる、そして人生のゴールは人それぞれ。努力の先に何かが待っている。この歌はすべての人のための人生の応援歌ですね。
さらには「君の心の決めたままに」という箇所も日本版独自のポイントだと思います。この箇所は、新たなステージに船出することを「君」も納得してくれたという風に読み取れます。周囲の理解や協力があってこその成功、というのは日本的な考え方ですね。がんばった結果として自分は成果を得た、という「My Way」と比べると、日米の文化の違いがよく出ている箇所です。
それぞれの「マイ・ウェイ」
以上、いくつかの「マイ・ウェイ」を見てきました。同じ曲でも、歌詞によって随分違うものになるんですね。歌詞には国民性も反映されているように思えました。もちろん、それぞれ素晴らしい歌詞です。どの「マイ・ウェイ」がいいですか。その人ごとのイチ押しが、その人の「マイ・ウェイ」ですね。