スペインの音楽
Tb.パートの大槻です。
カテゴリ「関連情報」では、では、当団で取り上げている楽曲に関連するマメ知識をご紹介していきます。
第4回は、スペインの音楽についてをご紹介します。
ブルースカイ・ウィンド・アンサンブルでは、しばしばスペインの楽曲を演奏しています。
スペインの音楽はリズムやメロディーが個性的で情熱的です。音楽の種類も多く、異国情緒に溢れている点がその魅力なのです。
「スペインの歴史」のところにも書きましたが、イベリア半島は古くからさまざまな民族が訪れてきた土地です。
民族、言語、宗教、地域性の違いに加えて、政治上も常に複数の王国に分断されていました。
こうした事情が地域ごとに独自の文化を生み出し、様々な音楽を育てました。
今回はスペインの音楽を地域ごとに見てみようと思います。
今回は19世紀末にスペインを旅したフランスの作曲家・エマニュエル・シャブリエを先達として、各地域を調べることにします。
シャブリエがスペインの各地を訪れたのは1882年のこと。旅は半年がかりの長いものでした。 そのころのシャブリエは今後は作曲に専念しようと決心し、長年勤めた内務省を退職したばかりでした。 スペイン旅行は単なる物見遊山ではなく、今後の自身の音楽活動の糧を探す目的もあったのでしょう。 シャブリエはこの旅を通じて名曲・「狂詩曲『スペイン』」の曲想を得た、と伝えられています。
シャブリエが訪れた町にはきっといい音楽があるはずです。では順番に見てみましょう。
バスク
サン・セバスチャン
サン・セバスチャンはスペインの北東部、フランスとの国境に近い位置にあります。 もともとバスク人のナバラ王国やカスティーリャなど周辺の国々からの影響下にあった町ですが ナポレオン軍によって町は壊滅し、その後再建されました。 現在は観光都市となり「ビスケー湾の真珠」と呼ばれているとのことです。
バスク地方はバスク州、ナバラ州の他フランスにもまたがる地域で、バスク語など独自の文化があります。 バスク人は、ローマ、西ゴート族、イスラム、フランク王国などの侵入を阻止し独立を保ってきました。
バスクの音楽で特徴的なのはベルチョという即興詩歌だそうです。韻を踏んだ詩を作り、無伴奏で歌います。 19世紀にホセ・マリア・イパラギーレが歌った「ゲルニカの木」はバスクの愛国歌になっているとのことです。 曲調としては、やさしいメロディが緩いテンポで歌われ、素朴な農村の歌、という印象がします。
アラゴン
サラゴサ
アラゴン州の州都で、昔から交通の要衝として重視された町でした。 イスラム人に支配された時期もありましたが12世紀に解放され、アラゴン王国の首都として栄えました。
ホタはアラゴン発祥の民族舞踊です。6/8または3/4拍子の踊りで、フラメンコのルーツともいわれているそうです。 ホタは『狂詩曲「スペイン」』でも出てきますね。 民族衣装の男女が列を作って向かい合い、軽快なテンポで周り、飛び跳ねる、イキイキとした踊りです。 ただし、女性だけで踊る場合や、それほど跳躍しないものもあるようです。 カスタネットのキレのいい音を聞くといかにもスペインという感じがします。
カタルーニャ
バルセロナ
古代ローマの植民市として始まり、その後イスラム勢力やフランク王国に支配されました。 解放後はカタルーニャとして独立し、地中海に勢力を拡大するなど発展しました。 現在はカタルーニャ州の州都でマドリードに次ぐ大都市です。 カタルーニャ語が公用語であるなど、独自の文化を持つ地域で、民謡の宝庫ともいわれているようです。
カタルーニャにはサルダーナという伝統舞踊があります。 男女問わず大勢が手をつなぎ円を作り踊るものです。位置の入れ替わりはなく、同じ場所で足のステップを踏み体を上下に動かすくらいです。 こうした踊り方はスペインというよりギリシャやトルコ系のものだそうです。 楽団の演奏も伴っているようですが、フラメンコのような濃い情念の世界とは正反対。 2/4拍子で速からず遅からず。中高年でも踊れる感じです。健康的な、ほのぼの感があります。 自分たちはスペイン人ではなくカタルーニャ人だ、というアイデンティティ醸成の意味も込めて踊られているそうです。
カスティーリャ
ブルゴス
カスティーリャ・イ・レオン州に位置する都市。850m 程の山地にあり交通の要衝として栄えました。カスティーリャ王国の首都だったこともあったそうです。
トレド
イベリア半島の中央にあり、西ゴート時代の首都になるなど、重要な都市として栄えました。
セギディーリャはスペインで最も古く、16世紀からある踊りです。 ラ・ マンチャ(カスティーリャ南部)が起源で、その後スペイン全土に広まりさまざまな名前で呼ばれるようになったということです。 4人(男2,女2)で一組になって踊るスタイルで、音楽は3拍子(3/4,3/8)です。フラメンコ、パソドブレ、ボレロの元になったという説もあるようです。
バレンシア
バレンシア
ローマ時代から続く歴史ある町で、イスラム人により長期間支配され独自の文化を持つようになりました。 13世紀にバレンシア王国となりました。現在は地中海に面したリゾート地でもあります。公用語はバレンシア語です。
バレンシアの民族舞踊はバレンシアーナ。「ホタ・バレンシアーナ」と紹介されていたりします。ちなみに元祖であるアラゴンのホタは「ホタ・アラゴネサ」というそうです。 アラゴンの箇所で書いた通り、ホタは6/8または3/4拍子の速いリズムで, 男女一対または多数の男女が対になってカスタネットを持って踊るものです。 輪を描いたり、元気に飛び跳ねるのが特徴のようです。 ホタは求愛の踊りだそうで大変に生命感にあふれています。
アンダルシア
マラガ
スペイン南部・アンダルシア地方の都市。ここも歴史が長く、古代フェニキア人が作った港町です。現在でもスペインを代表する経済都市です。
マラゲーニャはマラガに伝わる民謡です。本来は踊りを伴わない音楽ですが19世紀にフラメンコ風になったそうです。 強烈なリズムは一度聴いたら忘れられません。
ブルースカイでもかつて取り組んだ演目です。
グラナダ
スペイン南部・アンダルシア地方の都市。失地回復が進む中、イスラム勢力の拠点として最後まで残ったのがグラナダです。 アルハンブラ宮殿は最後のイスラム王朝が建てたものでイスラム建築の傑作とされています。
カディス
スペイン南部・アンダルシア地方の港町。古代ローマよりさらに昔に作られた歴史ある町です。 18世紀以降はセビリアに代わって大西洋の貿易を一手に握り、繁栄しました。
ヘロニモ・ヒメネス作曲の「ルイス・アロンソの結婚式」のお話の舞台が19世紀のカディスでしたね。
コルドバ
スペイン南部・アンダルシア地方の中核都市。内陸なので夏は猛暑になります。 古代ローマ時代からある町ですが、イベリア半島を占領したイスラムの王朝の都でもあったのでローマとイスラムの両方の文化が残っています。
セビリア
スペイン南部・アンダルシア地方の州都。海から100Kmほど内陸ですが実は港町です。 海抜7mなので川を使って大西洋と繋がっているのです。 特に大航海時代は新大陸との貿易港として繁栄しました。コロンブスの墓もこの町にあります。 セビリアといえば、闘牛とフラメンコ。古代ローマよりはるか昔からある街ですがイスラム文化の遺産も色濃く残っています。
セビリアはフラメンコの発祥地。ロマ族やムーア人の文化がアンダルシアの文化と溶け合って生まれたとされています。 ロマ族は北インドからヨーロッパに移動してきた人々で、定住しないことで独自の文化を保ってきました。 ムーア人は失地回復後もイベリア半島に残ったアフリカ系の人々です。
なお、もともとのフラメンコとは歌であり、踊りや伴奏を伴わないものもあるとか。 現在のように、カンテ(歌)、トケ(ギター)、バイレ(踊り)の三つを基本とするようになったのは19世紀ころからだそうです。
スペインには本当にいろいろな音楽がありますね。伝統音楽はとても奥が深そうです。
一流演奏家やダンサーによる洗練されたパフォーマンスは大変すばらしいですが、併せて、土地の人による素朴な歌や踊りも見聞きしてみたいものです。
同じ曲でもまた印象が変わってくるかも知れません。何事も原点は大事ですね。