楽曲紹介「鷲が歌うところ(Where Eagles Sing)」

Tb.パートの大槻です。
カテゴリ「楽曲」では、当団で取り上げている楽曲の紹介をしていきます。
第17回は、「鷲が歌うところ(Where Eagles Sing)」をご紹介します。

 この曲はハクトウワシ(白頭鷲)をモチーフにした、自然を讃える、雄大でエネルギッシュな作品です。 イギリスのポール ロバット=クーパーの初期のヒット作で、2006年に作曲されたものです。 イギリスを代表するブラス・バンドであるブラック・ダイク・バンドのために作曲されましたが、吹奏楽版もあります。

アメリカの国鳥・ハクトウワシ

 曲のタイトルにあるワシEaglesとはハクトウワシのことです。ハクトウワシはカナダ・アラスカ・合衆国など北アメリカ大陸に広く生息する北米最大の鳥です。 名前の通り、首から上が白い毛でおおわれ、体長2メートルにもなります。 古来、ネイティブ・アメリカンはハクトウワシを神聖な鳥として扱い、ハクトウワシそのものや羽を儀式や正装に用いてきました。

 アメリカ合衆国においても、その神々しい姿から力の象徴とみなされ国鳥に指定されています。 ハクトウワシはアメリカの国章や、連邦政府・公的機関の記章にも使われています。 人類初の月面着陸を果たした着陸船の名前も「イーグル」でしたし、アポロ計画のミッション徽章にもハクトウワシが描かれていました。 他にもロサンゼルス・オリンピックのマスコットになったりと、アメリカではよく知られた鳥であると言えます。

 ちなみにハクトウワシは英語でBald Eagleといいますが、ハゲワシではありません。辞書によれば古来、baldには白い毛の生えたという意味もあったということです。

 国鳥に指定されたのは建国から間もない1782年でした。しかし西部開拓を行う牧場主からは牛に被害をもたらす害鳥とみなされていました。 森林伐採や農薬汚染の結果、ハクトウワシは個体数を減らしていきました。

作曲者:ポール ロバット=クーパー

 フランスのノルマンディー半島近くにチャンネル諸島という島々があります。ここは、れっきとしたイギリスの一部でイングランド王室の直轄地です。 ポール ロバット=クーパーPaul Lovatt-Cooper(1976- )はチャンネル諸島のオルダニー(アルダニー)で生まれました。

 ロバット=クーパーは学校にいる時分からパーカッションの才能を発揮しました。その後はスウィントン・バンドから誘いがかかり入団しました。 さらにウィリアムズ・フェアリー・バンドやブラック・ダイク・バンドなどでも活動しました。いずれも屈指の演奏レベルを誇るバンドばかりです。

 一流のバンドを渡り歩いた後、2003年からはソロ活動を始め、作曲家、指揮者、演奏者として評価を得るようになりました。 作曲者としては、ブリッグハウス・アンド・ラストリック・バンドやブラック・ダイク・バンドなど英国で最も優れたブラス・バンドに委嘱作品を提供しています。 このほかテレビおよびメディア企業、音楽会社の音楽ディレクターとしても活動しています。

 ロバット=クーパーの曲はしばしば金管バンドのコンクール課題曲になることもありました。もちろんそれ以外の楽曲も高い人気があります。 パーカッションのプレーヤーとしてのセンスを生かした躍動的な曲もあれば、ブラス・バンドのイメージを一新させるような楽器のポテンシャルを追求した曲もあります。

 ロバット=クーパーの輪郭をお伝えするために例として作品をいくつか挙げましょう。

ウォーキング・ウィズ・ヒーローズ(Walking with Heroes)

 ロバット=クーパーの初期の作品です。ここでいうヒーローとは並外れた能力を持つ英雄のことではなくて、愛する人、家族、友人など敬愛するすべての人のことです。 自分の周囲の人々を讃える曲です。

ビータ・エティルナム(Vitae Aeternum)

 曲名はラテン語で「永遠の命」という意味です。「主よ、心からあなたを賛美します」とか「聖霊よ、あなたの力を私に与えてください。」といった歌詞が付けられています。

ファイア・イン・ザ・ブラッド(Fire in the Blood)

 「血と炎」は救世軍のモットーです。救世軍の国際スタッフバンドの120周年を記念して書かれました。 救世軍は社会福祉・教育・医療などの支援活動と宗教伝道を合体させたイギリスのプロテスタントの団体です。 両親とも救世軍の将校だった家庭環境からでしょうか、ロバット=クーパーにとっても救世軍は精神的バックボーンであるようです。

蘇るハクトウワシ

 ロバット=クーパーはアメリカのフロリダに旅行した時にディズニー・アニマル・キングダムに立ち寄りました。 そこでハクトウワシのショーを見て、観客の上に舞い上がる姿に大いに魅せられ、ハクトウワシに敬意を表した作品を作ろうと思ったそうです。 ロバット=クーパーはハクトウワシについて、サイズとパワーが巨大でありながら優雅に飛ぶことに驚いた、と語っています。

 この言葉のとおり、『鷲が歌うところ』では鷲の3つの特徴である大胆さ、優雅さ、そして力強さが表現されています。 冒頭は鷲が人々の頭上を飛び交う大胆なシーンをイメージしたものです。続く中間部は細かい動きに乗せたコラールになっています。ここは鷲の優雅さを表現した部分です。 そして終結部は力強い曲調で鷲のパワフルなイメージを讃えています。

 ハクトウワシは1967年には絶滅危機にある種として指定され、法令で保護されるようになりました。 その後、人々の努力が実を結び、この曲が書かれた2006年には、ハクトウワシの個体数も順調に回復していました。 ロバット=クーパーはショーを通じて、全米で再び鷲の鳴き声が聞かれるようになったことを知ると同時に、自然への畏敬の念を新たにしたに違いありません。

 ハクトウワシは2007年には絶滅危機から除外されました。 現在ではハクトウワシは全米各州に生息していますが、特に五大湖西部のミネソタ州やイリノイ州では自然の中を飛ぶ雄大な姿を見る事ができ、人気のウォッチング・スポットもあるそうです。