楽曲紹介「The Whistler And His Dog(口笛吹きと犬)」
Tb.パートの大槻です。
カテゴリ「楽曲」では、当団で取り上げている楽曲の紹介をしていきます。
第27回は、『he Whistler And His Dog(口笛吹きと犬)』をご紹介します。
『口笛吹きと犬』は、アーサー・プライアーが作曲したオーケストラのための作品です。
アーサー・プライアーはアメリカのトロンボーン奏者および作曲家でした。この曲は、『スコットランドの釣鐘草』の編曲と並んで、プライアーの作品の中で最も有名で、日本でもよく知られています。
ちなみにこの曲の犬のモデルになったのは、ロキシーというプライアーが飼っていたブルドッグの愛犬なのだそうです。
『口笛吹きと犬』
この曲には場面の説明とストーリーが伝えられています。
それによると、日曜日の朝、公園に少年が現れて口笛を吹くと、遠くから小犬が駆け寄ってくる。少年と小犬はじゃれ合い、スキップしながら、少年と小犬が遠ざかって行く、という場面だそうです。
曲名では「his dog」となっているのですが、「口笛吹き」の少年が飼っている犬という訳ではなく、口笛に反応してどこからかやってきた犬、ということになりますね。
この曲は、楽器を持たない観客も口笛を吹けば楽団と一緒になれるということで、当時アメリカにおいて人気曲になりました。
しかし、この曲を演奏してほしいというクリエストがあまりにも多くなり、プライアーはうんざりしてしまいます。 そこで別の曲を作曲して曲の人気を分散させようと考えました。こうしてできたのが『サミーとミズリーのラバ』Sammy and his Missouri Muleという曲なのですが、この曲にも当然ながら口笛が入っています。
『口笛吹きと犬』は日本でもよく知られています。器楽曲としてばかりでなく、歌詞を付けて歌われることもあるようです。
日本語の歌詞によると、前半部分は原作に近い設定ですが、後半部分は時が流れて小犬と再会するという歌詞です。 しばらくぶりに犬を見かけると、小犬は母犬になっていて、周りに小犬がいっぱい、という楽しい歌詞になっています。
トロンボーンの神様
アーサー・ウィラード・プライアーArthur Willard Pryor(1869-1942)はアメリカのミズーリ州セントジョセフに生まれました。
父は楽団の創設者で、楽団はその名も「プライアーバンド」。こうした環境により、プライアーは幼少期から音楽に接し、ヴァイオリン、ドラム、ピアノなどを学び、演奏しました。 6歳で父親のプライアー・バンドで演奏し、「ミズーリ州の驚異の少年」として宣伝されたということです。
プライアーはトロンボーンの名手として数々のエピソードを残しています。
11歳の時にはトロンボーンを吹き始め、10時間に及ぶ父親仕込みの練習によって15歳のころには完璧にマスターしていたということです。 22歳のとき、かのマーチ王フィリップ・スーザ率いるスーザ・バンドに加わり、すぐにソロのトロンボーン奏者として活躍しました。 そのため、それまでスーザ・バンドの首席トロンボーン奏者だったフランク・ホルトンFrank Holtonは退職してしまいました。 ちなみに、このあとホルトンはトロンボーン製造を始めました。こうして生まれたのが楽器の名ブランド・ホルトンなのです。
プライアーは楽団で「トロンボーンのパガニーニ」と称されるほどの名手でした。 トロンボーンのスライド技は電光石火であり、人間業とは思われなかったので、楽器に何か仕掛けがあるのではないかと疑われることもあったようです。 10,000回と言われるほどソロ演奏を行い、イギリス国王エドワード7世とロシア皇帝ニコライ2世にも披露したということです。
プライヤーは1895年から1903年まで、スーザ楽団の副指揮者を務めましたが、 父の死後は、スーザ吹奏楽団を退団しプライアー・バンドのバンドマスターとなりました。このバンドは以後30年間アメリカを代表するバンドであり続けました。
作曲家としても知られており、生涯に300曲程度作曲したと言われています。プライアーは当時普及し始めたレコードの吹き込みにも熱心で、大量の音源を残し、音楽を普及させました。
オリジナル演奏は
プライアー・バンドによる貴重な録音を聴く機会がありました。録音年は1913年です。
この録音によると、口笛部分の演奏テンポは110拍くらいです。しかし口笛の2コーラスめの前、crescのあるあたりからぐんぐんとテンポアップしていき、最終的にテンポ170拍くらいまであがります。 そして口笛の2コーラスめからは元のテンポに戻ります。今の楽譜とは違うようですが、人気曲なので何度も演奏するなかで、いろいろなバージョンを生み出していたのだろうと想像されます。
また、興味深いのは曲の最後の部分です。
曲の最後では楽器は使わず、本物の口笛との本物の犬の鳴き声とが何秒間か重なります。 この演出の秒数がけっこう長く、個人的感想としては曲そっちのけになってしまっているように感じました。
ちなみに口笛は「フィフィフィフィフィ…」と切れ目なく続きます。アメリカでは犬を呼ぶ時はこういう風に吹くものなのでしょうか。 締めはスネアのロールが入り、ジャジャン!! で終了します。
ところで当時、犬の鳴き声はどうやって録音に入れたのでしょうか。スタジオに犬を連れ込んだのでしょうけれども、どうやってタイミングよく鳴かせたのでしょうか。 それとも多重録音とか高度な(?)録音技術を使ったのでしょうか。
この曲はプライアー・バンドの人気曲で、演奏依頼のリクエストが多かったそうですが、プライアー・バンドの生ステージではどのようにしていたのかも、知りたいところです。 成功・失敗は犬次第、というぶっつけ本番のドキドキ感も人気の理由のひとつだったのかも知れません。