楽曲紹介『リトル・マーメイド・メドレー』
Tb.パートの大槻です。
カテゴリ「楽曲」では、当団で取り上げている楽曲の紹介をしていきます。
第33回は、『リトル・マーメイド・メドレー』をご紹介します。
『リトル・マーメイド・メドレー』は1989年に作られた映画『リトル・マーメイド』から3曲を取り上げたものです。
『リトル・マーメイド』はアンデルセン童話『人魚姫』の翻案です。 今回は童心に立ち返って『人魚姫』を読み直してみることにしましょう。
アンデルセン童話
アンデルセン童話はデンマークの童話作家、詩人である、 ハンス・クリスチャン・アンデルセンHans Christian Andersen(1805-1875)によって作られました。
アンデルセンはデンマークのオーデンセで生まれました。家庭環境は経済的には大変貧しかったといわれていますが、ハンスは記憶力のいい子どもだったそうです。想像力も豊かで、この才能はのちに作家として大成する下地となりました。
やがてデンマーク王立バレエ団のバレエ学校に通い、王立劇場の踊り子見習いとなりました。 ここでは幸いなことに劇場の支配人に気に入られ、学費援助を受けたり、著名人と会う機会を得たりすることができたそうです。
1835年に小説『即興詩人』がヨーロッパ各国で翻訳出版されるほど評判となり、名前が知られるようになりました。
その後、アンデルセンは童話を書いて発表していきました。『人魚姫』、『みにくいアヒルの子』、『マッチ売りの少女』、『雪の女王』など生涯で約170作あるといわれています。子供から大人まで人気が高く、現在も多くの国で愛されています。
『人魚姫』とは
アンデルセンの童話のうち1835年から1837年に作られたものが『子どものための童話集』として出版されました。 その中のひとつが『人魚の姫』です。現在は『人魚姫』のほうが通りがいいようです。
モチーフになったのは人魚伝説です。人魚伝説は世界各地にあるようですが、国や地域によってタイプは異なるそうです。デンマークなど北欧の国では人魚は美女として語られています。このイメージから『人魚姫』のような、内省的で悲しくも美しい話が生まれたんですね。
海底に住む人魚の姫はある日人間の王子に恋をしてしまい、王子と結婚することを望むようになります。姫は魔女に頼んで美声と引き換えに人間の体にしてもらいました。ただし王子と結婚できない時は姫は泡となって消えてしまうのです。
姫は王子のもとに行きますが、身分違いの娘が王妃になれるはずもなく、声を出して想いを伝えることもできず、そうこうするうち王子は他の娘と結婚してしまいます。王子の愛を得ることができなかった姫は溶けて泡になり、空に昇っていきました。
永遠の命を求めて
悲恋の物語として語られる『人魚姫』ですが、王子への愛がこの話のすべてではありません。 この物語の本当のテーマは、真の救いを得るにはどうすればよいか、です。
人魚は三百年生きられますが魂を持たないので死んだら終わりで、永遠の命がありません。 これに対して人間は寿命が短いものの魂を持っているので永遠の命があるというのです。 このことを知った人魚姫は、どうすれば人間のような永遠の命を得られるのか、いつも考えるようになりました。 人魚姫は救いを求める人々のことを暗に表わしています。
人魚も永遠の命を手に入れることができますが、それには人間に愛されなければなりません。 そんな折、姫は王子に恋してしまいます。王子との愛が叶えば永遠の命も手に入ります。 こうして姫は王子の愛と永遠の命の両方を望むようになったのでした。
姫は王子に接近するも、王子からの愛を得られず夢破れてしまうのは前述の通りです。 魔女の説明によれば、王子の愛を得られなければ姫は泡になって消えるのです。
しかしここで不思議なことが起こります。姫は泡になって消えた後も空気の精になって生き続けるのです。 物語ではその理由を、苦しみに耐え王子に真心を尽くすという善行を積んだからである、としています。 苦難は"かみさまのおためし"であり、自らの善行が神によって結果として帰ってくる、真の救いにつながる、という訳です。
しかし完全な永遠の命を手に入れるには、あと三百年善い行いをする必要があります。 他者から愛を受けるのではなく、自ら善行を積まねば永遠の命は手に入らないのです。 アンデルセンは他者に頼らず自ら運命を開け、といいたかったのでしょう。 自らも貧困を経験したアンデルセンの作品には、貧しい人々への共感を込めたものが多いと言われています。 努力を積むことで幸せになれるいう結末にすることで、貧しい人々を励まそうとしたのかも知れません。
姫は、人魚、魔女、人間という三つの世界の狭間を漂った挙句、人魚の世界や家族を捨て、王子とも別れ、空気の精としてなおも長い道のりを歩き続けます。姫の本当の苦難はこれからのはずですが、同時にかすかな希望も読み取れます。 真の救いを得るためには悲しくても泣いてはいけない、喜びに満ちながら生きなさいというメッセージとともに物語は終わります。
ディズニー映画における「リトル・マーメイド」について
上述の「人魚姫」をディズニーによって再解釈し、ミュージカル・アニメーションとして仕立て上げたのが「The Little Mermaid(リトル・マーメイド)」です。
ディズニーは、みなさんご存知「ミッキー・マウス」を筆頭とするカートゥーン・アニメーションからテーマパーク事業まで展開するエンターテイメント会社の大御所です。
今回ディズニーの詳細な紹介は割愛しますが、長編アニメーションの製作は1937年から現在に至るまで続いており、ディズニー社が展開する事業の大きな柱となっています。
そんなディズニーも創立者の一人であるウィルト・ディズニーが1966年に亡くなって以降、ヒット作品に恵まれていませんでした。
そんな時代からディズニーを救ったのが、1989年公開の「リトル・マーメイド」です。
本作品の大ヒット以降、90年代は「ディズニー・ルネサンス」と呼ばれ、いわゆる黄金期を向かえることになります。
楽曲面では、アラン・メンケンが本作品で初めてディズニー作品に携わっており、
同氏は後に「美女と野獣」「アラジン」「塔の上のラプンツェル」等、数多くのディズニー作品で名曲を残しています。
本メドレーでは、アカデミー賞歌曲賞やグラミー賞最優秀楽曲賞を獲得した「アンダー・ザ・シー」をはじめ、
「キス・ザ・ガール」「パート・オブ・ユア・ワールド」といった名曲がメドレーになっています。