楽曲紹介 讃美歌39番『日暮れて四方は暗く(Abide With Me)』

Tb.パートの大槻です。
カテゴリ「楽曲」では、当団で取り上げている楽曲の紹介をしていきます。
第37回は、讃美歌39番『日暮れて四方は暗く(Abide With Me)』をご紹介します。

 『日暮れて四方は暗く』(ひくれてよもはくらく)讃美歌39番は 『日暮れてやみはせまり』讃美歌21 218番としても親しまれています。

 英語では、讃美歌「Abide with me:fast falls the eventide」であり、 「私とともにとどまってください:はや夕闇迫りぬ」として知られています。

 アメリカにおいてよく歌われる、人気の高い讃美歌で、 主とともにあれば恐れるものはありません、どうか共にいてください、という祈りが込められています。

詩と曲

 この讃美歌は、スコットランド人の聖公会信徒ヘンリー・フランシス・ライトによって1847年に書かれました。

 この讃美歌が作られた経緯については二つの説があるようです。

 一つは、1820年にライトが瀕死の友人を訪ねた際にこの讃美歌を作曲したというものです。

 もう一つは、ライトが結核によって死の床にありながらも最後の説教を垂れ、その夜書き上げたのがこの詩である、という説です。ライトが世を去ったのはそれから3週間後のことで、この讃美歌はライトの葬儀で初めて歌われた、ということです。

 この詩には、生・苦境・死のいずれにおいても、わたしと共にいてくださいという、主に対する祈りが込められています。

 「I fear no foe with thee at hand to bless,」祝福の御手を持つあなたとともにあれば いかなる敵も恐れません

 死が迫っても苦しみに克ち、死を微塵も恐れない姿が、この言葉に凝縮されています。

 ライトの讃美歌としては代表的なものですが、現在ではライトの曲ではなく、 ウィリアム・ヘンリー・モンクが1861年に作った『Eventide』(夕暮れ)という曲に合わせて歌われています。

ヘンリー・フランシス・ライト

 ヘンリー・フランシス・ライトHenry Francis Lyte, M.A.(1793-1847)は、1793年にスコットランドのエドナムEdnamで生まれました。

 医学を勉強するつもりでしたが志望を変え、大学では神学を志しました。生涯病弱でしたが、詩の才能があり、大学在学中にも賞をもらうなどしたそうです。

 1815年に聖職者になり、2年後にコーンウォールCornwallのマラジオンMarazionに移りました。

 しかしその翌年、牧師仲間の病気と死に直面したことがライトのその後の生き方を変えていきました。ライトは霊的な衝撃を受け、人生とその問題をさらに考え、より聖書を研究するようになりました。

ウィリアム・ヘンリー・モンク

 ウィリアム・ヘンリー・モンクWilliam Henry Monk(1823-1889)はイギリスのオルガン奏者、教会音楽家、音楽編集者でした。 教会の礼拝や賛歌のための音楽を書き、讃美歌「Abide with Me」に使用された「Eventide」や「All Things」などを作曲したことで知られています。

 モンクは初め、ロンドン中心部にあるセント・ピーターズ教会などロンドン市内の複数の教会のオルガニストを務めました。 やがて、讃美歌の編曲を行ったり、讃美歌のメロディーを書くようになり、作曲家、編曲家、編集者として認められるようになりました。

 讃美歌集の編集も行い、「Abide with me」や「Eventide」といった曲を提供しました。この讃美歌集は讃美歌本としてはベストセラーといえるほどの人気だったそうです。

 他にはイギリスの名門音楽学校や大学声楽科の教授も務め、後進の指導にあたりました。

ルカによる福音書

 ライトの詩によれば冒頭部分は次のようになっています。

 「Abide with me:fast falls the eventide;/the darkness deepens;Load,with me abide.」

 これは、私のそばにとどまってください;早くも夕暮れが迫り;闇が深まっていきます、という内容で、 聖書の中の『ルカによる福音書』24章29節に基づいているといわれています。

 『ルカによる福音書』は、新約聖書中の一書でキリストの言行を描く四つの福音書のひとつです。 著者はパウロの弟子の医師であるルカLucamとされ、1世紀中ごろか2世紀初めに書かれたと考えられています。

 このうち、24章は『ルカによる福音書』の最後の部分で、イエスの復活が書かれている箇所です。復活したイエスと弟子たちが共に歩き、村についたころには日が暮れたのですが、イエスは尚も先に行こうとするので、弟子たちはイエスを呼び止めた、という場面で、次のような呼びかけがあります。

 "Abide with us: for it is toward evening, and the day is far spent"

 「わたしたちと一緒にお泊りください。もう夕暮になっており、日もはや傾いています。」

 実はこの時点では弟子たちは同道者が復活したイエスであることに気づいていませんでしたが、 このあとパンを与えられたときに弟子たちは気づき、その瞬間イエスの姿は見えなくなった、ということです。



 この詩において、"日暮れ"が示すものは世界の終末や人生の終わりです。 しかし、不変なる主とともにあれば誘惑をくじき、苦しみに勝ち、天国の朝が開かれる、と歌っています。

 「I triumph still,if thou abide with me.」は、"私はいやが上にも勝利します、もしあなたががそばにあれば"、という意味です。

 「主のちかくましまさば、われ勝ちてあまりあらん、」(讃美歌39番)は、多くの人に勇気を与える言葉です。