楽曲紹介 『オン・パレード(On Parade)』

Tb.パートの大槻です。
約10か月ぶりの更新となります。
カテゴリ「楽曲」では、当団で取り上げている楽曲の紹介をしていきます。
第40回は、『オン・パレード(On Parade)』をご紹介します。

 『オン・パレード』は、かのマーチ王・ジョン・フィリップ・スーザのマーチです。 この曲はオペレッタ『ライオン使い』の中で演奏された関係で、『ライオン使い』The Lion Tamerという別名があります。
当時、このオペレッタはブロードウェイで上演されて好評を博したようですが、 残念ながら現在では忘れられ、曲だけが残されています。
スーザがオペレッタの作曲をしていたことはあまり知られていないかも知れません。今日はオペレッタの作曲家としてのスーザを見て見ましょう。

「マーチ王」J.P.スーザ

 ジョン・フィリップ・スーザJohn Philip Sousa(1854-1932)は、言わずと知れたアメリカの作曲家、指揮者です。
スーザは13歳のとき、父親の紹介でワシントン海兵隊楽団に見習いとして入団しました。 親子二代で海兵隊バンドに関わったことになりますね。1880年からはワシントン海兵隊楽団のリーダーとなりました。
多忙な中にも『雷神』『星条旗よ永遠なれ』『ワシントン・ポスト』などの名曲を書き、生涯に作曲したマーチは100曲以上と言われています。ヨハン・シュトラウス2世が「ワルツ王」と呼ばれたのをもじって、スーザは「マーチ王」と呼ばれました。
1892年には海兵隊楽団を辞任し、スーザ吹奏楽団を結成しました。 この楽団は最高水準の演奏技術で知られ、全米はもとより海外でも演奏旅行を行いました。
19世紀末から20世紀初頭にかけては、欧米各国でバンド演奏が花盛りの時代でしたので、スーザ吹奏楽団は市民に熱狂的に迎え入れられました。

スーザとオペレッタ

 スーザにはマーチ以外に、オペレッタの作曲家という、もう一つの顔がありました。 スーザはそのキャリアの早い段階からオペレッタに関心を持っていたらしく、 オーケストラや劇場でバイオリニストとして活動していたこともあったようです。
しかし作品が未発表に終わったり、資金繰りの危機、役者とのトラブルなどもあり、 オペレッタへの進出は順調とは言えなかったようです。
その後、『エル・カピタン』などが人気作となりましたが、 現在では、ほとんどの作品でそのストーリーは忘れられてしまいました。
ただ幸いなことに、オペレッタで使われた曲のうちマーチとして保存されたものは、現在でも演奏されています。 『オン・パレード』もそうした曲の一つなのです。

オペレッタ『ライオン使い』

 このオペレッタはマルセイユの破産しそうなサーカス団で繰り広げられる喜劇です。サーカスのオーナーが債権者を騙すために自分の死を偽装し、一連のユーモラスな出来事が引き起こされます。
全二幕から成り、舞台となる場所は、第一幕はマルセイユ、第二幕はコルシカ島です。
主人公はカシミールというサーカスのライオン使いです。 ほかにはカシミールの奥さんと、彼女に横恋慕する大公、悪事をたくらむ伯爵、恋愛真っ最中の若い中尉と伯爵の娘などが登場します。
浮気や誤解、だまし、スリル、などオペレッタの定石が盛り込まれている作品です。

 『ライオン使い』が書かれたのは、1892年のことでした。 セリフと歌詞はJ・C・グッドウィン、音楽はリチャード・スタール、 そしてオーケストレーションはJ・P・スーザが担当しました。
ジョン・チーバー・グッドウィンJohn Cheever Goodwin(1850-1912)はボストン生まれで、新聞記者を経て演劇作家になった人です。初期の作品は、フランスのオペラ・ブッフの英語への翻訳物や、
フランスのコミック オペラからの翻案などでしたが、 後にオリジナル作品も書き、その多くは批評家から高い評価を受けました。ミュージカル劇場の草分けとして位置付けられており、また、19世紀後半で最も多作な台本作家ともいわれています。

 ミュージカルは40作にのぼりますが、『80分でニューヨーク一周』(1899-1900)『士官候補生の少女』(1900)『眠れる森の美女と野獣』(1901-1902)など楽しいタイトルの作品もあります。
リチャード・スタールRichard Stahl1858-1899(1860?-1899)はドイツ生まれで、軍事音楽家として勉強した後、 1880年頃に米国に移り、劇団の監督になりました。
作曲家としても交響曲、吹奏楽、オペラの各分野で活動し、ミュージカルシアター向けの作品も残しています。

 余談ですが『ライオン使い』にはオリジナルがあって、フローラという裕福な女性と恋に落ちるレオという名前のライオン調教師の物語です。
社会的地位の違いを乗り越えようと、二人は関係を良好にしようと努めます。 しかし、フローラの父親は二人の恋に反対し、二人を引き離そうとする、という内容です。

ライオン使いの歌

 この作品において、主人公カシミールはライオンを恐れない「比類なき勇者、恐怖心を持たない男」と周囲から祭り上げられます。しかし、当のカシミールは好きでライオン使いをやっている訳ではないようです。
主人公が歌う、その名も『ライオン使い』という歌の歌詞によれば、カシミールには別の夢や葛藤があるようです。 実際の歌詞は長いですが、縮めると以下のような内容です。

 私は殉教者になりたかった、若い頃は間違いを正すために猛烈な熱意に燃えていた。 でも壮大な決意にもかかわらず、まだ夢は手に入れていない。
運命の定めにより、ライオン使いであり続けねばならないのだ 忌々しい(D・A・M・N)!
私は名俳優になりたかった、若い頃は劇的で偉大な演技ができるようになりたいと思っていた。 でも私が大切にしたいものは、まだ手に入れることができていない。
やりたいことをやるんだという欲求にもかかわらず、まだライオン使いを続けているのだ 忌々しい!

 いつの時代もやりたい仕事で成功するのは難しいことですね。不本意ながらも目の前の仕事を頑張らざるを得ない人もたくさんいることでしょう。
スーザだってひょっとするとマーチよりもオペレッタで比類なき成功を手に入れたいと思っていたかもしれないのです。
こうしたカシミールの心境に自分自身を重ねてみる人も多いことでしょう。どんなに仕事ぶりを賞賛されても、それで心から満足できるかどうかは本人にしかわからない話です。
誰か知る、勃々たる青春の夢。なれど老いてなお、理想は得難く夢は彼方にあり。そんな時は"D・A・M・N"と言う前に、「やりたいことをやるんだ」"Do what I will"という歌詞を思いだして、チャレンジ精神を掻き立てたいものです。

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